栃木県立がんセンターとジェイファーマ 研究契約締結 ナンブランラトの薬効と胆道癌細胞の遺伝子変異の関係について共同研究を開始

2025年1月8日
地方独立行政法人栃木県立がんセンター
ジェイファーマ株式会社

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地方独立行政法人栃木県立がんセンター(所在地:栃木県宇都宮市、理事長:尾澤 巖)とジェイファーマ株式会社(所在地:神奈川県横浜市、代表取締役社長:吉武 益広)は、このたび、胆道癌細胞株を用いたドライバー遺伝子変異とアミノ酸トランスポーターLAT1阻害薬ナンブランラトの薬効の関係について、研究契約を締結し、胆道癌における新たな治療法に向けた臨床開発への橋渡し研究をスタートさせたことをお知らせいたします。

本研究を推進する栃木県立がんセンター研究所副所長・分子病理分野長の尾島英知医師は、本研究の意義について、以下の通りコメントしています。

「胆道癌の抗がん剤は非常に限られ、しかも満足な結果には至っておりません。有効な薬剤がひとつでも増えることは治療の選択肢がひろがることとなり、胆管癌に苦しむ患者さんにとって非常に有益なことです。すでに、本剤は臨床試験が行われており、有効な結果が得られておりますが、さらに高い効果が得られる特定の遺伝子変異について理解を深めることは極めて重要です。今回、ジェイファーマ株式会社とともに私どもが一貫して行ってきた胆道癌研究の経験を活かして、新規抗がん剤を胆道癌に苦しむ患者さんに速やかにお届けする橋渡し研究(Translational research)を行います。これは、栃木県立がんセンター研究所のミッション(我々が果たすべき使命や任務)にも合致しており、大変意義のあることと思います」

【胆道癌について】
食べ物の消化を助ける胆汁は肝臓で作られます。胆道癌とは、その胆汁が通る管(肝内胆管、肝外胆管、vater乳頭部)と、胆汁をいったん格納して濃縮する胆嚢に生じる非常に悪性の高い腫瘍です。また、胆管は解剖学的に肝臓や膵臓といった非常に重要な臓器と密接に関係しているため、進行するとこれらの臓器も腫瘍の浸潤・増殖の場となることが多く、診断・治療をより困難なものにしています。最新の国立がん研究センターの統計では、肝外胆管・胆嚢癌だけで毎年21000人あまりの方が診断されています。5年生存率は膵癌に次いで悪く、根治的治療法は外科的切除のみですが、患者さんの多くは進行した状態で発見されるため、外科的切除できないことが多い腫瘍でもあります。また、外科的切除が行われたとしても、再発することが多く、切除不能または切除後に再発した胆道癌患者さんへは標準治療(ゲムシタビンとシスプラチンまたはS-1の併用療法) を行います。標準治療で効果が得られなかった場合に投与する有効な薬剤が少しずつ登場しているものの、患者さんや治療を行う臨床医が満足する状況には至っておりません。少しでも早く、そしてひとつでも多くの有効な新規抗がん剤が開発されることが急務とされます。

【ナンブランラトについて】
ナンブランラトは、ジェイファーマ社が独自に見出した選択的にLAT1を阻害する新規の低分子化合物です。ジェイファーマ社は2015年から複数の固形癌を対象に臨床第Ⅰ相試験を行い胆道癌への可能性を見出し、2018年から3年半の時間を費やし、進行性胆道癌を対象とした国内第II相試験を実施し、単剤で有用な臨床効果を示すことを明らかにしました。ナンブランラトは、LAT1を標的とし臨床開発を進めている世界初の化合物であり、医薬品の承認を取得すれば、ファースト・イン・クラス(疾患に対して新しい作用機序で初めて承認に至る医薬品)の新薬となります。ナンブランラトは2022年4月に米国食品医薬品局(FDA)からオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に指定され、臨床開発プログラムへの助言相談、臨床試験費用の一部税額控除、申請費用の免除、米国における7年間の独占販売権付与などの優遇処置を受けることができます。2024年9月25日付けで、FDAより、ナンブランラトのがん患者における臨床試験に対するInvestigational New Drug(IND)申請が承認され、米国での2025年のフェーズ3試験の実施に向け、引き続き、FDAと協議を行っています。

*ナンブランラト国内第II相試験の結果に関する論文
Furuse et al. A Phase II Placebo-Controlled Study of the Effect and Safety of Nanvuranlat in Patients with Advanced Biliary Tract Cancers Previously Treated by Systemic Chemotherapy. Clin Cancer Res. 2024; 30(18):3990-3995.

【アミノ酸トランスポーターについて】
多くの細胞はその活動性を維持するための栄養源として様々な物質を細胞内に取り込んでいます。とくにアミノ酸や糖は重要です。アミノ酸トランスポーターはアミノ酸を細胞内に運ぶ役割を果たしています。

【LAT1について】
ジェイファーマ社創業者の遠藤仁医師が1998年に世界に先駆け発見したLAT1 (L型アミノ酸トランスポーター; 遺伝子コード: SLC7A5 )は、細胞ががん化し急激に増殖しようとするときに細胞膜での発現が亢進しエネルギー源であるアミノ酸を盛んに取り込むことで爆発的な細胞増殖を起こします1。LAT1は、近年科学的な解明が進み、LAT1の複雑な分子構造が最近報告されがん治療において薬物標的として注目を集めてきています2。LAT1高発現のがん患者は、LAT1低発現のがん患者に比べ予後が悪いことが報告されています3。

1. Häfliger P, et al. Int. J. Mol. Sci. 2019; 20 (10): 2428
2. Kanai Y. Pharmacol Ther. 2022; 230:107964
3. Otani R, et al. Cancers (Basel) 2023; 15: 1383

【栃木県立がんセンターについて】
栃木県立がんセンターは291床を有するがん専門病院です。また、厚生労働省から都道府県がん診療連携拠点病院の指定を受け、医療従事者の養成や、地域の医療機関等との連携協力体制の整備、がん患者さんに対する支援等に関して、栃木県内の病院や関係団体と連携し栃木県のがん対策の推進に取り組んでいます。

【ジェイファーマ株式会社について】
ジェイファーマ株式会社は、「SLCトランスポーターの新たな可能性を追求し、アンメット・メディカル・ニーズに応える革新的新薬の開発を通じて、世界中の人々が健康を維持し、希望を持ち続けることに貢献する」を企業理念としています。この理念のもと、SLCトランスポーターのひとつで創業者が発見したLAT1(L型アミノ酸トランスポーター)に注力し、がんや自己免疫疾患において既存薬では対応できない患者様のニーズに対応しうるLAT1阻害剤の開発を進めております。現在、臨床開発中のLAT1阻害剤「ナンブランラト」や「JPH034」に加え、新たな候補化合物の研究も進行中です。2023年10月には米国子会社を設立し、そのメンバーおよび米国のコンサルタント等と密に連携して、適切な薬事・開発・知的財産権戦略を構築しております。ジェイファーマ株式会社の詳細情報は、https://www.j-pharma.com/をご覧ください。

【本件に関するお問合せ先】
地方独立行政法人栃木県立がんセンター研究所 広報広聴センター
TEL:028-658-5151(代表)
Mail:tcc-press@tochigi-cc.jp

ジェイファーマ株式会社 担当 管理部・広報
TEL:045-506-1155
Mail:info@j-pharma.com

以上